フランス語キーボードのお話
フランス語キーボード|なぜ配列がAZERTYなのか?
AZERTYは、主にフランスで用いられるフランス語キーボードの配列です。
キーボードのアルファベット部分の上端左からA・Z・E・R・T・Yと並んでいることが特徴です。
【フランス語の成り立ち】
フランス語はフランスをはじめとする多くの国の公用語でもありますが、その歴史は、ローマ皇帝ユリウス・カエサルによる紀元前58年から紀元前51年までのガリア戦争に端を発します。
その当時、今のフランスにあたる地域には、ケルト語系の言葉を話すガリア人という人々が暮らしていました。このケルト語系の言葉の一部は、アイルランド語やウェールズ語として今に引き継がれています。
ガリア戦争によりガリア人の居る地域にもローマの支配が及ぶこととなります。そしてローマの公用語であるラテン語は、ガリア人にも広まっていき、各地で方言化し使われ始めます。
その後のヨーロッパを取り巻く複雑な歴史の中で、正式なラテン語と異なる方言化した言葉の一部が、古フランス語、中世フランス語へと発展していきます。
フランスが中世以降、国家という単位で成立していく中、フランス語も文法や用法の整備が図られていき、現代フランス語へと繋がっていきました。
【AZERTYとタイプライター】
現在のフランスでは、AZERTYという配列のキーボードが用いられています。
このAZERTYはQWERTY配列から生まれましたが、実はその成立については現在でも明確にされていません。
フランスの出版印刷史に関する歴史家、アンリ=ジャン・マルタンは、その著書の中で、アメリカでは定番となっていたQWERTY配列のタイプライターがフランスでも広まっていく中、1890年代にキーボードの配列が変わっていったことを述べています。
ここでも、なぜAZERTY配列なのかという疑問は解消されていません。しかし年代については、パリ速記研究所長であるアルベール・ナバルという人物と20人の研究員が、1901年にZHJAYキーボード配列を考案したものの、すでにフランス国内の多くのタイピストがAZERTY配列に慣れていたため、この配列の普及は失敗した事例が記されています。ここからAZERTY配列は、1890年代に生まれたとの推察をされているものと思われます。
【AZERTY配列をとりまく環境】
2016年、フランス文化・通信省は、現在のAZERTY配列が、アクセント付き文字体(Â、Ë等)や合字体(Æ、œ)を使用するフランス語の入力には不完全であるとの見解から、AFNOR(Association Française de Normalization/フランス規格協会)に対し、フランス語入力に適したキーボード配列の検討を要請します。
これを受けAFNORは、2017年にフランス語入力に適した2種のキーボードの配列(改良型AZERTY配列および改良型Bépo配列)を規格草案として公表し、パブリックコメント(意見や改善案を広く公募する手続き)を受付けました。
AFNORはユーザーが従来からのAZERTY配列を支持するのであれば、その継続も選択肢として残しつつ、意見の収集のうえ本年2019年に規格化の見解を公表するとしています。
フランスでは、フランス語の入力方法として、AZERTY配列は最善ではないとの考えが浮上するものの、前述のZHJAY配列のように改善した配列が普及しないといったことが、たびたび起こりました。目下進められている配列の見直しについても、今後観察していく必要があります。
なお、フランス語話者の多いカナダでは、QWERTYに準拠した配列が、カナダ規格協会(Canadian Standards Association)によりフランス語対応規格として標準化されており、AZERTY配列は一般的ではありません。
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