ウルドゥー語キーボードのお話
パソコンの外国語キーボードは、言語や成り立ちにより様々な配列の種類があります。
今回は、つい先日もインドとの緊張に繋がる事件の報道があったパキスタンの公用語のウルドゥー語、その言語とキーボード配列についてのお話です。
ウルドゥー語は現在のパキスタンの国語ですが、同国内での母語話者は1割にも満たず、むしろインドでの話者数が多い言語です。
少々複雑ですが、ウルドゥー語はお隣インドの連邦公用語であるヒンディー語と同系で、文法や語彙をはじめ同一の言語といえるものの、表記に使う文字が全く異なるという特徴があります。
ウルドゥー語の文字は、アラビア文字が源流のペルシア文字を更に発展させたもの、対してヒンディー語はデバナガリ(デーヴァナーガリーとも)というインドに古くから伝わる文字を使って表記するのが一般的です(話者の居住地域などにより例外があります)。
今から遡ること70年ほど前、インド(当時はイギリス領インド帝国)がイギリスより独立することになりました。その際、域内で従来から対立する機会の多かったヒンドゥー教徒とイスラム教徒は紆余曲折の末、ヒンドゥー教徒の国=インドと、イスラム教徒の国=パキスタンという別々の国家として歩む道を選びました。
その独立の際、パキスタンではウルドゥー語を国語として制定しました。
こうした背景から、元々同一であった言語はウルドゥー語=イスラム教徒言語、ヒンディー語=ヒンドゥー教徒言語とも言える区分けが出来上がりました。
イスラム文化圏では、時代とともにアラビア語やペルシャ語からの借用語が増えていきます。現在のウルドゥー語も、当然に従来のヒンドゥー語よりイスラムの影響を受けた借用語が多く使われる、異なった発展を遂げることに繋がっていきます。
パキスタンは、多民族(パンジャブ人やパシュトゥン人など)によって構成され、それにより様々な言語を母語とする人々が入り混じる国です。
そのような状況から、共通の母語を有しない人々で構成される国内の意思疎通のために、独立を契機としてウルドゥー語を国語として制定し、統一して用いる必要がありました。
そのような状況下で、パソコンキーボードの元となるタイプライターのキーボードも、ウルドゥー語の国語化以降、様々なデザインの製品が急速に市場に投入されましたが、配列や文字表現の機能不足があり、標準化が求められるようになっていきました。
ウルドゥー語キーボード配列は、数世代にわたり発展を遂げていきますが、大きな契機となったのは、1979年にウルドゥー語の発展と促進の支援を目的とする機関「National Language Authority」(NLA)が設立されたことです。
ここでコンピュータや通信に対するウルドゥー語の符号化(エンコード)を研究開発するプロジェクトが開始され、『Urdu Zebta Takhti』が1999年に完成するに至りました。
この『Urdu Zebta Takhti』はその後、パキスタンの国民識別カードの発行、管理を行うナショナルデータベース局(NADRA)によってデータ入力用に採用されたほか、Windows XPに装備されるなどして、現在のパキスタンの標準配列となっています。
現在では「National Language Authority」(NLA)は、「National Language Promotion Department」と組織改編および名称変更がなされ、その活動は言語の標準化のみならず体系規範の確立や辞書編纂などにも拡大しています。余談ですが、イギリスからの独立前後にも対立することの多かったインドの言語的な影響を取り除くべく、独立したウルドゥー語ソフトウエアの開発も奨励しているようです。
各言語のキーボードの配列は、掘り下げると面白いエピソードが含まれているものが多くあります。次回もまた別の言語キーボードについてお伝えします。
パソコンにキーボード表示を追加できる「マルチリンガルキーボードラベル」ウルドゥー語(記事中にもあるパキスタン標準「Urdu Zabta Takhti」配列)版は、下記にてにて発売中です。